#1-ミラノで見せた、新しい工藝のかたち

#1-ミラノで見せた、新しい工藝のかたち

未来工藝研究所 × 成縁組 × Alter|Milano SaloneSatellite 出展レポート

2026年、未来工藝研究所※は、イタリア・ミラノで開催されたデザインの国際的な展示会「Milano SaloneSatellite」にて、成縁組の前成美さんとともに制作した2つの作品を出展しました。
今回のテーマは、伝統工芸とサステナブル素材の融合。
日本の木工技術である組子や建具の技法に、studio oreさんが開発する自然由来の新素材「Alter」を組み合わせることで、これまでの工藝とは異なる、新しい表現の可能性を探りました。

※「古今と」は「未来工藝研究所」の一員として活動に参画しています

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自然由来の素材「Alter」との出会い

今回の作品に使用した「Alter」は、studio oreさんが独自に開発したサステナブル素材です。
海藻と多糖類、特にアルギン酸に由来するバイオレジンをベースに、カフェや食堂、ホテル、農園、加工工程などから出てくるフードウェイストを掛け合わせてつくられています。
すべて自然由来の原材料を使用した、生分解性の素材シートです。
素材そのものに、廃棄されるはずだったものがもう一度美しい表現へと生まれ変わる循環の思想が込められています。
今回、私たちはこのAlterを、単なる新素材としてではなく、伝統工芸と呼応するための素材として捉えました。

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work1|茶室の比率から生まれた、静かな景色

1つ目の作品は、茶室の比率から着想を得て構成した作品です。
襖貼り、組子、建具など、日本のものづくりに根ざした職人技を全体に施しながら、円窓の中には幾何学的な造形によって日本庭園を想起させる景色を描き出しました。

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茶室という空間は、単なる建築ではなく、自然や時間、人の所作を受け止めるための日本文化が凝縮された小さな装置でもあります。

その思想を現代の素材と組み合わせることで、静けさの中に新しさを感じる表現を目指しました。
Alterには、茶殻から生まれた緑と、藍による色彩が用いられています。
茶や藍という日本の生活文化に深く関わる色が、自然由来の素材として再構成され、組子や建具の技術と重なることで、今までの日本の伝統的な建具にはなかった色味や表情を出しつつも、伝統と素材の循環を静かにつなぐ作品となりました。

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work2|三次元組子による「紡ぎ」の表現

2つ目の作品は、未来工藝研究所と成縁組の前成美さんによって編み出された「三次元組子」の技術を用いて制作しました。

従来の組子は、平面的な三角や四角の格子や文様として捉えられることが多い技術です。

しかし、三次元組子では、その繊細な構造を立体的に展開することで、光や奥行き、見る角度によって変化する表情を生み出すことができます。

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今回の作品では、本展示ブースのメインビジュアルからインスピレーションを受け、組子の立体表現とAlterフィルムによるグラデーションを重ね合わせました。
テーマとしたのは「紡ぎ」です。
木の構造が重なり、素材の色が透け、光が奥へと抜けていく。
その立体的な連なりの中に、光、素材、技術、人の手が少しずつ重なっていくような感覚を込めました。

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Alterの柔らかな透明感と、組子の精密な構造が組み合わさることで、新たあな素材でありながら、どこか障子や布や光のような日本古来の素材にも見えるような表現が生まれました。

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ミラノで感じた、工藝へのまなざし

ミラノサローネは、世界中からデザイナー、建築家、メーカー、キュレーター、学生、メディア・ジャーナリストが集まる場です。
その中で印象的だったのは、国内外の若手デザイナーの多くが、「日本」をひとつの起点としてデザインを考えていたことでした。
素材の扱い方、余白のある構成、自然との関係性、手仕事の精度、生活文化の中にある美意識。
それらは決して古いものとしてではなく、現代のデザインにおける重要な参照点として受け取られていました。

同時にもうひとつ興味深かったのは、世界の若手デザイナーたちが、デジタルファブリケーションを積極的に活用しながら、手仕事やオートクチュールのような一点性のあるものづくりを模索していたことです。
3Dプリント、レーザーカット、CNC、アルゴリズムによる形状生成などの技術は、単に効率化や量産のためだけに使われているのではありませんでした。

むしろ、それらの技術を通して、人の手ではたどり着きにくい造形や構造を生み出し、最後に人の手で仕上げることで、より個人的で、複雑で、身体性のある表現へとつなげているように見えました。
また、自分たちで工藝や素材、形のアーカイブをつくり、それを参照しながら制作している姿勢も印象的でした。
過去の技術や文様、地域に残る素材や構法を、単なる資料として保存するのではなく、次の創作のための「参照体系」として扱っている。
そこには、伝統や工藝を固定されたものとして守るのではなく、データベース化し、解釈し直し、自分たちの表現へと接続していく態度がありました。

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この姿勢は、未来工藝研究所が取り組んでいる組子のアーカイブ化や、kumikoAIのような技術とも重なる部分があります。
職人の感性や技術を、デジタルによって置き換えるのではなく、より広く参照できる状態にし、そこから新しい表現やプロトタイプを生み出していく。
ミラノで見えたのは、そうした工藝とテクノロジーの関係が、すでに世界の若いデザインの現場で自然に始まっているということでした。

私たち自身も、日本の伝統工芸をただ「日本らしいもの」として見せるのではなく、素材開発や環境意識、現代の空間表現、そしてデジタル技術と接続したかたちで提示し、日本の伝統懐古になりすぎないことを意識していましたが、その意識は僕たち固有のものではなく時代固有のものであるということも再認識しました。

ミラノで感じたのは、日本の工藝や美意識には、まだまだ世界のデザイン文脈の中で開かれていく可能性があるということです。
それは、伝統をそのまま輸出するということではありません。
日本の地域や素材、手仕事、空間感覚の中にある価値を、現代の課題や感性に合わせて再編集することで、世界の人々と共有できる新しいデザインになり得る。
今回の展示を通して、工藝は過去のものではなく、これからの社会や環境、暮らしを考えるための重要な手がかりになると改めて感じました。

おわりに

今回の作品は、成縁組の前成美さん、studio oreさんをはじめ、多くの方々との協働によって生まれました。
職人の手仕事、素材開発、デザイン、空間構成。
それぞれの領域が交わることで、ひとつの作品が立ち上がっていく過程そのものが、未来工藝研究所にとって大きな学びでした。

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組子という伝統技術。
Alterという循環型の新素材。
茶室や日本庭園に通じる空間感覚。
そして、三次元組子による新しい造形表現。

これらを世界の中の位置付けとしてみるとても貴重な機会でした。

これからも未来工藝研究所は、伝統、素材、技術の価値を現代のデザインとテクノロジーによって拡張する試みを続けていきます。

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