2023

伝統民家に学ぶ環境調整建具

Research/Prototype

伝統民家に学ぶ環境調整建具

風と熱を調える、糸島の納屋

本計画は、伝統民家に見られる環境調整の知恵を、現代の改修設計へと応用する試みである。

日本各地の民家には、深い軒、障子、蔀戸、開閉可能な建具など、地域の気候や暮らしに応じて環境を調整するための工夫が組み込まれてきた。本研究では、それらの手法を抽出・整理し、環境シミュレーションによって効果を検証した上で、糸島に残る農業用納屋の改修設計へと展開した。

対象建物は、福岡市西区元岡地区にある納屋である。農業を生業としてきたこの地域には、多くの納屋が点在しているが、農業人口の減少とともに使われないまま解体されるものも増えている。そこで本計画では、使われていない納屋を、近隣住民や大学生のためのミーティングスペース、工房、ギャラリー、倉庫として再生することを目指した。

設計では、敷地周辺の気象条件と既存建物の空間特性を読み解き、それぞれの場所にふさわしい用途を割り当てた。開口部が小さく落ち着いた一階の倉庫はミーティングスペースに、風通しのよい半屋外空間は工房に、田園風景を望む二階の大開口まわりはギャラリーとして計画した。

特に二階の大開口には、夏期の日射による過熱や冬期のコールドドラフトに対応するため、環境調整出窓を提案した。建具をダブルスキン化することで季節に応じて断熱ラインを変え、出窓化によって風を取り込みやすくする。さらに床面にPCMを敷設し、日射熱の蓄熱や夜間の蓄冷を行うことで、開口部まわりの熱環境を調整する仕組みとした。

実大実験と環境シミュレーションの結果、ダブルスキンとPCMを組み合わせることで、冬期には床面温度が高く保たれ、窓からの熱損失も抑えられることが確認された。これにより、従来は暑さや寒さの影響を受けやすかった窓辺を、人が滞在できる場所へと変える可能性が示された。

本計画は、伝統民家の知恵をそのまま再現するものではない。地域の気候を読み、既存建物の特性を活かしながら、建具という身近な要素を通して環境を調整する方法を現代的に翻訳する試みである。

使われなくなりつつある納屋を、最小限の介入によって再び地域に開かれた場所へと変えること。そして、機械設備に頼りきるのではなく、季節や時間に応じて人が環境と関わる建築をつくること。

この改修が、元岡地区に残る納屋再生のプロトタイプとなり、伝統的な建築の知恵を現代の暮らしへ応用するための手がかりとなることを目指している。